捜索・差押えとは
事件が発生した場合,捜査機関は,被疑者の自宅や職場に立ち入り,証拠を取得することがあります。例えば,被疑者が自宅で覚せい剤を所持しているという疑いがある場合,被疑者の自宅内に入って覚せい剤を確保する必要があります。
このような場合に行われる手続が,捜索・差押えです(刑事訴訟法218条)。
捜索とは,被疑者の身体や住居等について,証拠物等を発見するための強制処分であり,差押えとは,証拠物の占有を強制的に取得する処分です。例えば,被疑者の自宅内に覚せい剤がないか探索するのが捜索,探索して発見した覚せい剤の占有を,被疑者から捜査機関に移転させるのが差押えです。
このように,被疑者の同意なく,強制的に探索し,被疑者の占有物を取得するわけですから,プライバシー権や財産権等の人権を著しく侵害することになります。そこで,捜索・差押えを行う場合には,原則として,裁判官が発布する捜索差押許可状(令状)が必要になります(憲法35条1項,刑事訴訟法218条1項)。
捜索・差押えを行う場合には,原則として令状が必要ですが,逮捕の際に捜索・差押えを行う場合には,例外として令状が不要とされています(憲法35条・33条,刑事訴訟法220条)。
捜索・差押えの要件
捜索・差押えは,被疑事件の証拠を取得するために行われるものであるため,被疑事実と関連性のある場所の捜索や物の差押えでなければなりません。
また,令状により場所や物が特定されている必要があります。
さらに,捜索・差押えの必要性がなければなりません。
これらの要件を欠く違法な捜索・差押えがなされた場合には,刑事訴訟法429条1項2号の押収に関する裁判として,準抗告ができるとするのが判例・通説です。弁護人としては,違法な捜索・差押えがなされていないか,慎重に吟味し,違法であれば準抗告し,違法な捜索・差押え処分を取り消すよう求めることになります。
押収された物を返してもらいたい場合
では,違法ではなく,適法な捜索・差押えによって押収された物を返してもらいたい場合,どうすればよいのでしょうか。
このような場合,捜査機関に対し,還付または仮還付の請求をすることになります。「還付」とは,押収物について留置する必要性がない場合に,捜査機関の占有を解いて現状に回復することです。「仮還付」とは,留置する必要性がないわけではないが,返還しても支障がない場合に,捜査機関に戻すことを留保して一時的に返還することです。
弁護人は,被疑者が押収された物を取り戻したいという場合には,準抗告や還付・仮還付の請求など,必要な手続を選択して,物の返還を求めることになります。
逮捕の際の捜索・差押え
捜索・差押えを行う場合,人権侵害を防止するため,裁判官の令状が原則として必要でした。しかし,逮捕の際の捜索・差押えでは,例外的に令状が不要とされています。それはなぜでしょうか?
まずは以下の条文をご参照ください。
刑事訴訟法220条1項
検察官,検察事務官又は司法警察職員は,第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは,左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも同様である。
1号 人の住居又は人の看守する邸宅,建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること
2号 逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすること
2項
前項後段の場合において逮捕状が得られなかったときは,差押物は,直ちにこれを還付しなければならない。
3項
第1項の処分をするには,令状はこれを必要としない。
逮捕の際の捜索・差押えで令状が不要とされる理由
以上のとおり,被疑者を「逮捕する場合」で「必要があるとき」に「逮捕の現場で」行われる必要があり,厳格な要件が定められていること,逮捕に関連して行われるものであることから,不当な人権侵害のおそれはなく,また,捜査上の便宜にも適うものであるため,令状が必要とされていないと思われます。
もっとも,「逮捕する場合」(時間的限界),「必要があるとき」「逮捕の現場で」(場所的限界)など,注意すべき要件がありますので,逮捕の際に不当な捜索・差押を受けたと感じた場合には,すぐに弁護士に相談すべきでしょう。