今回は,保護責任者遺棄罪について解説いたします。
はじめに保護責任者遺棄等についての条文を確認しましょう
刑法第218条(保護責任者遺棄等)
老年者,幼年者,身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し,又はその生存に必要な保護をしなかったときは,3月以上5年以下の懲役に処する。
1 客体(行為の向けられる対象)
保護責任者遺棄罪の客体は,「老年者,幼年者,身体障害者又は病者」に限定されますが,いずれも,「扶助を必要とする」状態であることが必要です。
「老年,幼年」の判断は,年齢のみで決められるものではなく,「扶助を必要とするか否か」との関係において相対的に判断されます。また,泥酔者は,「病者」に該当すると考えられています。
2 主体(行為を行う者)
保護責任者遺棄罪の主体は,「老年者,幼年者,身体障害者又は病者を保護する責任のある者」に限られます。この保護責任は,法令の規定,契約,条理等に基づき発生します。
親権者の子に対する監護義務や,ベビーシッター契約に基づき引き取った幼児に対する監護義務,同棲を始めた女性の連れ子への監護義務等が代表的な例として挙げられます。
3 行為
「遺棄し,又はその生存に必要な保護」をしないことになります。
「遺棄」とは
「遺棄」とは,客体を場所的に移転させること(安全な場所から危険な場所に移すこと)に加え,置き去りのように,客体を危険な場所に放置する行為を指します。
「生存に必要な保護をしない」とは
「生存に必要な保護をしない」とは,場所的離隔を伴わず,客体が生存していくために必要な保護をしないことをいいます。
同居しながら,幼い子供に食事を与えない行為,病気で体の自由がきかない両親に食事を与えない行為などが代表例としてイメージしやすいでしょう。
4 まとめ
以上のように,保護責任者遺棄罪が成立するか否かには多様な考慮要素が存在し,一概に判断することは困難です。
懲役刑もある重大事件ですので,本条に該当するかもしれないと少しでも疑いがあるときは,すみやかに弁護士に相談されることをおすすめいたします。