令和2年7月30日、被害者の車にGPSを取り付けて、位置情報を監視する行為について、最高裁判所はストーカー規制法が処罰する「見張り」行為には該当しないとの初判断を下しました。
この事件、実は2つの別事件が最高裁判所に係属していました。それぞれの原審は福岡高裁、その第1審は福岡地裁と佐賀地裁での事件であり、地元案件ということで注目していました。どちらの事件でも、第1審は「見張り」に該当すると判断したのに対し、福岡高裁は該当しないと判断していました。なお、佐賀地裁の事案は元恋人関係、福岡地裁の事案は現夫婦関係の事案でした。
最高裁判所は、ストーカー規制法における定義規定を引用した上で、「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、被害者等の「住居等」の付近という一定の場所において被害者等の動静を観察する行為が行われることを要する、と判示しました。
そもそも、ストーカー規制法では、第2条で具体的な「ストーカー行為」が定義されています。
第1号では、「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。」が書かれており、「見張り」行為は、明らかにリアルな現場で行われる行為を想定しています。被告人らを有罪とした佐賀地裁や福岡地裁の判決を読んでも、「見張り」行為について、リアルでない場面に拡大解釈する理論的根拠は書かれておらず、説得力に欠ける内容でした。
同じく定義規定である第2条1項2号では、GPSの主目的である監視に関する条文が出てきますが、そこには「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。」とありますので、加害者が被害者に内緒でGPSを付けて監視していた事案に、第2号は適用できません。本来はこの条文を、GPS装着によるストーカー的被害が多発している訳ですから、国会が速やかに改正しておくべきだった、と言えるでしょう。
なお、加害者の行為がストーカー行為の要件に該当すれば、加害者に対しては、警察が警告を出したり、公安委員会が禁止命令を出したり、あるいは犯罪として処罰できると規定されているところであり(ストーカー規制法第3条、4条、5条、18条、19条等)、法治国家の日本で条文をむやみに拡大解釈することに対して、警鐘を鳴らす意義もあったと言えるでしょう。