[ Q ]
窃盗罪の保釈は可能ですか?
[ A ]
事案にもよりますが,可能です。
くわしい解説
今回は,窃盗罪の保釈に関する相談です。
窃盗罪といっても,万引き,スリなど,いろいろな態様があります。今回は,以下のような万引きの事例で,保釈が可能かについて検討します。
妻と子がいる会社員であるAさんが,スーパーで食料品等10点(3000円相当)を万引きしました。子どもはまだ幼く,妻はパートをしていますが,生活のためにはAさんの収入が必要不可欠な状況です。Aさんは以前にも万引きをして逮捕されたことがありました。Aさんは後日起訴されました。
万引きは窃盗罪であり,法定刑は,10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
保釈とは
まず,保釈とはどのような手続でしょうか。
勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができる。
上記で「被告人」と規定されているとおり,保釈は起訴後にしか認められません。起訴後に勾留(刑事訴訟法第60条)され,身柄を拘束されている被告人は,保釈が認められれば勾留の執行が停止され,身柄が解放されることになります。
どのような場合に保釈が認められる?
では,どのような場合に保釈が認められるのでしょうか。
保釈の類型として,必要的保釈(刑事訴訟法第89条)と職権保釈(刑事訴訟法第90条)があります。
必要的保釈とは
必要的保釈とは,保釈の請求がなされた場合に,刑事訴訟法第89条に定める事由に該当しなければ,必ず認められるものです。
保釈の請求があったときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
1 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
2 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
3 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
4 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
5 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
6 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
本件で必要的保釈は認められる?
それでは,本件において,必要的保釈が認められるでしょうか?
本件は窃盗罪であり,法定刑が「10年以下の懲役」と定められています。これは,刑事訴訟法第89条第1項の,「被告人が」「短期1年以上の懲役」「に当たる罪を犯したものであるとき」に該当しますので,必要的保釈は認められないということになります。
もっとも,必要的保釈が認められない場合であっても,裁判所は職権で保釈を許すことができます(職権保釈)。
職権保釈とは
職権保釈については,刑事訴訟法第90条に以下のとおり規定されています。
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
本件で職権保釈は認められる?
それでは,本件において職権保釈が認められるでしょうか?
弁護人としては,妻と幼い子どもを捨てて逃亡する可能性は低いこと,被疑事実の内容から,罪証隠滅の可能性は低いこと,身体拘束が長期化することでAさんが職を失い,家族の生活も苦しくなる可能性が高いこと,などを主張することになるでしょう。
本件においては,保釈が認められる可能性は十分あると思われます。