執行猶予とは,刑の言渡しがなされた場合に,情状により一定期間その執行を猶予し,期間が経過したときは,刑の言渡しがその効力を失い,刑罰権が消滅するという制度です。
例えば,万引き(窃盗)をして起訴され,懲役1年・執行猶予2年という判決を受けた場合,刑の執行が2年間猶予されますので,ただちに刑務所に入る必要はありません。そして,これまでどおりの生活をし,2年が経過するまで何事も起こさず過ごすことができれば,懲役に服する必要がなくなります。
執行猶予が言い渡されない場合はどうなる?
仮に,執行猶予が言い渡されない場合,例えば懲役1年という刑の言渡しのみがなされた場合は,執行が猶予されませんので,ただちに刑務所で1年間の懲役に服さなければならないわけです。
このように,執行猶予が言い渡されるか否かによって,その後の人生にとって大きな違いが生じてきますので,執行猶予を獲得できるか否かは非常に重要です。
執行猶予の言渡しの要件
執行猶予には全部執行猶予と一部執行猶予がありますが,以下では,全部執行猶予の要件について解説いたします。
執行猶予には,以下の二つがあります。
① 初度目の執行猶予(刑法第25条第1項)
② 再度の執行猶予(刑法第25条第2項)
① 初度目の執行猶予の要件
(ア)「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」であるか,
(イ)「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」であることが必要です。
そして,(ア) (イ)の者が,「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」に「情状により」刑の執行を猶予することができます。
② 再度の執行猶予の要件
「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者」であることが必要です。この場合,「1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け」た場合に限られます。①の「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」とは異なり,かなり厳格な要件となっています。
また,「情状に特に斟酌すべきものがあるとき」でなければならず,この点においても,「情状により」とする①よりも厳格であるといえます。
そして,「刑法第25条の2の第1項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者」については,執行猶予は認められません。もっとも,保護観察の期間内であっても,保護観察が仮に解除されたときは,それが取り消されるまでの間は保護観察に付されなかったものとみなされます(刑法第25条の2第3項)。
執行猶予の期間
執行猶予の期間は,「裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間」です(刑法第25条第1項)。
執行猶予の効果
執行猶予の効果について確認しましょう。
まず,執行猶予の要件を満たすことにより,刑の執行が猶予されますので,一定期間刑の執行が実施されないことになります。懲役刑でいえば,執行が実施されないということは,刑務所に入れられないということです。
次に,刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは,刑の言渡しは,その効力を失います(刑法第27条)。「取り消されることなく」とあるのは,執行猶予が取り消される場合があるからです。
執行猶予の取消しとは
執行猶予の取消しには,① 必要的取消し と ② 裁量的取消し の2つがあります。
① 必要的取消し
執行猶予を取り消さなければならない場合
(ア)「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ,その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」
(イ)「猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」
(ウ)「猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき」
ただし,(ウ)の場合において,猶予の言渡しを受けた者が刑法第25条第1項第2号(*1)に掲げる者であるとき,または刑法第26条の2の第3号(*2)にあたるときはこの限りではありません。
(*1) 第25条第1項第2号
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
(*2) 第26条の2の第3号
猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
② 裁量的取消し
執行猶予を取り消すことができる場合
(ア) 猶予の期間内に更に罪を犯し,罰金に処せられたとき
(イ) 第25条の2第1項の規定により保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いとき
(ウ) 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ,その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき
さいごに
執行猶予についてご不明な点がある場合や,刑事事件でお悩みの場合は,当事務所までお気軽にご相談ください。